妻は脊髄小脳変性症。2019年4月に転倒して左手首を骨折し、それを機会に自宅に手すりを18カ所設置しました。すると、それまでしょっちゅう転倒を繰り返していたのが、設置後は現在まで1年9か月のあいだ、1回もケガをせずに過ごすことができました。これは特に縦の手すりの効果だと思っています。(S・M記)
追記:2023年12月現在、ケガなし記録更新中です。
設置前の妻は、覚えているだけでも顔や後頭部、腰とお尻、手首や足の指、両膝のお皿など、年から年中転んでばかりで、整形外科のお世話になるのも度々でした。
2年間で7回、整形外科を受診
私はスマホのカレンダーに、妻の「転倒による整形外科受診」をメモしています。(単なる転倒、打撲は数が多すぎてしていません)
2017. 7. 9 脱衣所 顔面強打
8. 4 脱衣所 後頭部裂傷
8.17 居間境 右手首捻挫
22 階段上 膝蓋骨骨折
2018.11.22 居間境 足薬指骨折
2019. 1. 2 脱衣所 膝蓋骨骨折
4. 9 居間境 左手首骨折
記録を見ると、居間境と脱衣所が危険ゾーンであるとわかります。
一番危険なところ
居間境というのは、畳敷きの居間とフロア張りのダイニングとの境界のことです。居間で座った状態から柱に沿って立ち上がり、スリッパを履いて方向転換する。この一連の動作でバランスを失うのです。柱を掴む(つかむ)ことはできないので、そのまま転倒していたのだと思います。
現在は、両手で2本の手すりに掴まりながら立ち上がります。特に柱の角に設置した手すりがとても優秀です。掴んだまま向きを変えることができるので、ここで転倒することはほぼなくなりました。
風呂の脱衣所
わが家のお風呂は地下にあります。急な階段の途中、向きを変える柱にもやはり縦の手すり。そして脱衣所までの空間が広く、掴まるところがありません。 そこで広い中間部に突っ張り棒で固定する縦手すりを付けました。これは住宅改修に該当しないので、介護用品のレンタルを利用します。これで脱衣所までの長いルートで、常に手すりに掴まっていることができるようになりました。
2階の寝室
手首を骨折してからの3カ月は居間で寝起きしていましたが、本来の寝室は2階です。ここでも入り口の柱に2本設置しました。
妻は下から階段の横手すりを伝って上がり、縦手すりを掴んだ時の安心感は全然違うよ、と言っています。
トイレ
縦手すりは、引き戸に干渉しない位置に設置しました。かなり下に伸びているのは、将来歩けなくなっても、這ってでも行くというのでそうしました。ここも必ず体の向きを変えるところなので、縦の手すりは絶対です。
廊下
ここは家の中でもっとも動線が集まるところ。広いのですべての柱に縦手すりを設置しました。妻は両手を広げ、手すりから手すりへ、遠回りになりますが安全に移動できるようになりました。
縦の手すりのおかげ
骨折を機会に設置した手すりは、18カ所、21本です。そのうちなんと15本が縦の手すりでした。妻の転倒回数が著しく減ったのは、この縦の手すりのおかげ、と私は確信しています。理由は、人間は自然に手を出した時、手のひらは縦になっていて、とっさの場合は縦の棒のほうが握りやすい。そしてよりしっかりと握ることができるからです。
172,000円の費用が17,200円ですんだ
会員のみなさんの多くは、すでにご自宅の手すり等は設置済みと思われますが、まだ初期症状でまだの方は、転倒予防のために早めに対応することをおすすめします。
手すりをつけよう! と思い立ってから完了するまでの手順を、私たちの例で説明しておきます。(このHPのリレーエッセイ「転倒→骨折を機に、住宅改修へ①②」に詳しく掲載しています)
①まずケアマネに相談
②危険箇所の検討と施工前の写真撮影
③施工内容と費用見積りの確認
④申請書を作成し、富山市介護保険課に提出
⑤許可がおりて施工
⑥業者に代金を全額支払い
⑦領収証と施工後の写真を介護保険課に提出
⑧代金9割分が申請書に記載した口座に
危険箇所の検討では、ケアマネさんのほかにO医療器のKさん、施工業者AハウスのNさん、それに通所リハビリの理学療法士Hさんの4人が来訪し、妻の朝起きてから就寝までの動線に沿って、転倒危険箇所を洗い出しました。さすがに専門家たちで、私たちの気づいていないリスクの高いところをアドバイスしてくれました。
また申請書はほとんどケアマネさんが作成してくれますし、施工は1人の大工さんが1日でこなしてくれました。後日施工業者さんに172,000円支払い、翌月には9割分が口座に振り込まれていました。差し引き17,200円ですんだことになります。
この病気の進行はおだやかですが、怖いのは転倒によって大ケガを負い、手術や長期入院で一気に歩けなくなったり、寝たきりになってしまう危険があることです。転倒予防におおいに役立つ手すり、特に縦の手すりのありがたさを実感しています。
もし人は、脊髄小脳変性症という病気でなかったらどの程度転倒すると思いますか?
健常人なら94%が1年間で1度も転ばない
厚労省の「平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果」によれば、60~64歳では「1年間で1度も転んだことはない…94.6%」、「一度だけ転んだことがある…4.0%」、「何度も転んだことがある…1.4%」とあります。さらに健康状態が良いと答えた人の何度も転ぶ確率は、普通と答えた人の1/3ですので、わずか0.45%です。
一方、この病気の患者が年に何度も転ぶのはほぼ100%で、医学書には「この病気の特徴的な病態」とあります。ですから転倒によるケガはこの病気に付随する傷病となります。
転倒によるケガは特定疾患で
特定疾患受給者証には「対象となるのは記載された疾病及び当該疾病に付随して発生する傷病」と記載されています。SCD、MSA、パーキンソン病など、その病気が原因で転倒した場合は、特定疾患受給者証を提示してみましょう。