「七十歳死亡法案、可決」
ショッキングなタイトルですが、これは小説なので安心してください。
作者は垣谷 美雨(かきや みう)さん。高齢者が国民の3割を超え破綻寸前の日本に対し、政府は「七十歳死亡法案」 を強行採決するというのが、この本のメインテーマです。
「日本国籍を有する者は誰しも七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。例外は皇族だけである。尚、政府は安楽死の方法を数種類用意する方針で、対象者がその中から自由に選べる様に配慮する」
少子高齢化が進む中で、年金も医療も崩壊寸前、そこで日本人は七十歳で死ぬことにするという法律です。この法律が施行されれば、国家財政の行き詰まりが、たちまち解消されるというとんでもない話です。荒唐無稽ではあるが、「長寿化は不幸の種の一つ」と考える人もいるかもしれません。この小説では、日本の現状について多くの問題を提起しています。タイトルは刺激的で設定も現実離れしていますが、少子高齢化、寿命と健康寿命のギャップ、若者の就職難、介護職の過酷な現状など日本の様々な矛盾についてもそれとなく取り上げています。また小説の中では、それらのしわ寄せを主婦が負っており、家族の無理解に切れた主婦が家出して、家族が大混乱に陥ります。その結果、主婦が背負わされていたものを家族が分担して受け持つことでみんなが変わっていき、めでたしめでたしという内容です。法案自体は施行までの2年間に状況が変化(国民の意識改革、寄付制度の確立など)して廃案という結末となります。
この作者は「老後の資金がありません」というタイトルの本も書いています。この作品も主婦の立場から問題提起していますが、最後に解決策が示されることで、悲惨で刺激的なテーマでも爽やかな気持ちで読み終えることができます。
この本を読もうと思ったのは、まさにその年齢になったからです。