20220530 協議会側の説明と国側の回答

・本稿は、5月30日に行われた厚労省との要望懇談を記録した報告書をもとに連絡協議会ニュース編集者が再構成したものです。
・掲載スペースの制約上、省略や簡略化している箇所があります。
・正確な表現、ニュアンスをご覧になりたい方は、連絡協議会事務局までお問い合わせください。

1.難病の治療研究予算を拡大すると共に、1日も早い有効なSCD・MSAの治療薬の開発を

(東京大学名誉教授 辻省次先生)
 難病法の改正に関連して、臨床調査個人票(略称:臨個票)のデータベースの利活用の促進が課題です。
 難病の自然歴を把握し、オンラインで登録できるようになると効率よく治験を実現していくためデータベース化が実現し、そのデータを幅広く利活用できるようになります。軽症者が含まれないという課題がありますが、これは政府が長年取り組んできた世界で唯一の誇るべき事業なので、前向きに検討をしていただきたいと思います。
 次に難病の治療法の開発研究についてです。最近は希少性の難病の研究開発はベンチャー企業あるいは製薬企業が力を入れるようになってきており、以前に比べると見通しが明るくなってきているように思います。
 治療法開発は、大学などアカデミアの研究と、企業による研究の二本柱で進めることが大切だと考えています。しかしアカデミアについては、国立大学の独立行政法人化以来、診療収益を上げることに注力していて、疾患研究の取り組みが進みにくくなってきている現状があるように思います。
 大学については文科省の管轄で、政府の縦割りも大きな制約になっています。希少性難病をはじめとして疾患研究の体制を抜本的に改善するためには、省庁横断的なグランドデザインの実現ということが必要になってくると思います。
(厚労省)
 コロナ禍の中で直接お会いして現場のご意見をお聞きすることは貴重だ。今日、ご意見をしっかりと受け止め、検討させていただきたいと思う。
 1点目のデータベースは、まさに世界に冠たる制度として唯一のもので、しっかりとしたデータベースを作り出していくことは、昨年夏の難病対策委員会でもとりまとめさせていただいた。改正に向けてしっかりと検討していきたい。
 研究の部分について厚労省としては、厳しい財政状況の中でも、研究費についてはしっかりと確保させていただく。
 また、各大学の現場の先生方と意見交換を行い、研究計画を元にできるだけ研究が進むよう省庁間で意見を伝えるなど、やり方等を含めて対応させていただきたいと思う。文科省の方には、私の方からこういったご意見があったということをしっかり伝えたい。
(辻省次先生)
 是非、省庁横断的に大きなスケールで考えていただきたいと思います。

2.海外で有効な新規治療薬候補の情報があった場合、安全性に最大限配慮しつつ、迅速に製造承認し、保険適用を行ってください

(いしかわSCD・MSA友の会 松本)
 株式会社リプロセルの「ステムカイマル」が、国内では第Ⅱ相臨床試験が2021年5月に全被験者の投与が完了しました。既に台湾では第Ⅲ相試験が行われていますが、この台湾の治験データをどのように活かすのか。今後の見通しを明らかにしてください。
(厚労省)
 ステムカイマルについては、台湾のステミネント社が開発している。健常者ドナー由来の体性幹細胞(MSC)を使った脊髄小脳変性症を対象とした製品になる。国内ではリプロセル社が脊髄小脳失調症のSCA3型、SCA6型の患者さんを対象とした第Ⅱ相臨床試験を実施し、2021年5月には全被験者への投与が完了。2022年5月には観察期間完了が公表されている。
 リプロセル社からは、台湾で行われた臨床試験についてPMDAに報告を受けていない。今後、リプロセル社が開発を進める中で、PMDAの相談を通じて、データの確認を行い、早期の薬事承認に向けて必要な審査を行っていきたい。
(いしかわSCD・MSA友の会 松本)
 海外データを含め、ステムカイマルの今後に向けてよろしくお願いします。
 次に、ルンドベック(デンマーク)・ジャパン社のMSAの新規治療薬候補Lu AF82422の日本における第Ⅱ相臨床試験開始について、日本でも開始されるようになった経過・経緯を教えてください。
(厚労省)
 Lu AF82422というお薬は、リン酸化されたαシヌクレインというタンパクに対する治療薬になる。日米の患者さん60名で投与を開始することを企業から報告を受けた。日本で行う場合は日本人に合わせた治験が必要になる。
 いずれにしても、企業から申請がなされ、審査において十分に確認させていただき、承認された場合には保険適用の手続きを進めていく形になる。
(いしかわSCD・MSA友の会 松本)
 世界各国では、MSAの治験が本当に数多く近年実施されています。患者・ご家族の方のためにも、世界レベルに届くように日本の治験の承認、また海外のデータベースも使えるようによろしくお願いいたします。

3.「ロバチレリン(KPS-0373)」を一日も早い保険薬適用に向け、早期審査・承認してください

(いしかわSCD・MSA友の会 松本)
 2月にも陳情を行いましたが、あらためてもう一度要望項目としています。
本日私は石川県から来ました。3年前にMSAの診断を受けましたが、とにかく進行がはやくてあっという間に話せなくなりました。現在では、口から食べ物を食べること、飲み込むことができなくなり、話したいけれど声が出せなくなりました。呼吸をするのもやっとです。
 今ここにおられる厚労省の方々にもご両親がおられると思いますが、私のように自分の親がもしこのような病気になったら、仕方ないね、そのうちね、と割り切ることができるでしょうか。
 2月以降もたくさんの患者・家族から要望の声をいただいています。1日も早い保険適用に向け、早期審査・承認を進めていただきますようお願いします。
(厚労省)
 ロバチレリンについては、令和3年12月22日にキッセイ薬品工業株式会社から製造販売承認申請がなされて、現在まさにPMDAで審査を行っている状況だ。効果の評価については、全体として、解析データの評価において妥当性を見るのが難しいのは事実。
 ただ、本年2月の陳情には私自身が要望書を受領し、患者・家族の声もお聞きして、その内容はPMDAの方にも共有させていただいている。
 そうした患者さんたちの要望の声があるということを重々認識した上で、科学的な最低限の有効性・安全性の確認はやはりやっていかなければならない。
 なお現在審査中で、今後の見通しについては具体的に回答するのは難しいということをご理解いただきたいと思う。安全性・有効性が確認された場合には、速やかに承認と保険適用の手続きを進めさせていただきたいと思う。

4. SCD・MSA患者に適したリハビリテーションやケアサービスを受けられる条件整備を図ってください

(近畿SCD・MSA友の会 新保)
 治療薬が少ない現状で、リハビリテーションは我々患者にとって唯一ともいえる治療手段です。リハビリにより生活範囲が広がります。結果、少しでも長く歩行ができ、就労できる期間が延びます。SCD・MSAの患者はまだ動けるころからtax userとして生きていくのではなく、tax payerであり続けたいと考えています。そういう思いを認識され、回答をいただきたいと思います。

4.1 SCD・MSA患者がリハビリテーションを受けやすくなる環境をつくってください。

 外来での通院リハビリを打ち切られ、どうすることもできない同病患者の悩みをよく聞きます。制度として可能ではあるものの、現実として外来リハビリが充実しているという実感がありません。我々患者がリハビリを受けやすくなる環境をつくってください。

4.2 HAL®医療用下肢タイプ(一般名:生体信号反応式運動機能改善装置、以下、「医療用HAL®」)の保険適応疾患に、SCD・MSAを追加してください

 HAL®医療用下肢タイプの保険適応疾患にSCD・MSAは含まれていません。資料04には、同病患者の医療用HAL®によるリハビリの効果を添付しています。ぜひSCD・MSAを保険適応疾患に加えてください。

4.3 運動失調症に対しての効果的な歩行補助具の開発への補助をしてください

 歩行に不安がある、公共交通機関の利用に不安があるために仕事を辞めることになった、という同病患者の悩みを聞きます。運動失調に効果的な歩行補助具の開発をすすめてください。外出がサポートされると就労機会も増え、SCD・MSA患者の自立につながります。
(厚労省)
4.1について
 SCD・MSAの患者さんは「疾患別リハビリテーション」で規定する、算定日数の上限を超えてリハビリができる場合というところに該当する場合がある。こちらについては、きちんとドクターとよくコミュニケーションを取って医学的に必要であるという意見書を貰って、リハビリしてほしい。
4.2について
 HAL®医療用下肢タイプの保険適用疾患については、薬事承認の範囲を踏まえながら、データに基づいて中央社会保険医療協議会の中で議論していくことになる。
(経済産業省)
4.3について
 経済産業省では、内閣府のとりまとめてきたSBIR推進プログラム(福祉課題)の中で、歩行者の歩行支援については開発支援をいただく。ご要望の歩行者の補助具の開発というのは継続していく。

(近畿SCD・MSA友の会 新保)
 外来リハビリの継続に関しては、制度としては可能だということは承知していますが、リハビリを途中で断念せざるを得ないという声をいただく現状がある中、改善して欲しいと強く思っています。

5. SCD・MSAを含む進行性の神経疾患を教育に取り上げてください

5.1 理学療法士・作業療法士の養成施設でのカリキュラムのあり方について検討されていますが、難病に対する理解、難病患者へのリハビリテーションの必要性についての内容は不十分です。より充実した内容にしてください

 私は理学療法士であり、養成施設で勤務していますが、臨床実習を終えた学生から「先生と同じ病気の患者さんを見たよ」という話を今まで聞いたことがありません。
 SCD・MSAのリハビリ環境を充実することにより、臨床実習で学生がSCD・MSA患者に関わる機会を増やしてください。カリキュラムの改定など何かお考えがあれば回答をお願いします。
(厚労省)
 SCDやMSAを含む神経難病については養成カリキュラムに含まれている。
不十分という要望かと思うが、今後5年を目処にカリキュラム見直しの検討会で、関係団体からの要望をいただきながら、必要な検討をしていきたいと考えている。
(近畿SCD・MSA友の会 新保)
 2019年の要望では、在宅医療のリハビリテーションの単位を増やすという回答を見て、やはり我々の疾患は介護保険でないとみられないのか、という思いが強くあります。しかし30代であれば介護保険は使えないので、医療におけるリハビリテーションの充実を図って欲しい。
 是非とも学生から臨床実習の間に、我々患者がリハビリテーションに触れる機会、環境作りを増やしていただけたらと強く考えています。

5.2 教育機関において、早期から難病教育を開始する等の充実化を図ってください

(いしかわSCD・MSA友の会 松本)
 がん対策基本法に基づく、がん教育ではすでに取り組みがありますが、難病教育というものは難病法の中で取り上げられていません。私たちの患者さんの中にも、ヤングケアラーは存在しています。遺伝する可能性が高い子どもたちが親の看護をしながら発症してしまうという現実があります。切実な悩みであり、1日も早く解決して欲しい問題です。難病法の中で、ヤングケアラーの問題を含め、難病教育を進めて欲しいです。
(厚労省)
 我々の中でもしっかり受け止めて解決していきたいと思う。

田畑議員が発言

(田畑 衆議院議員)
 (養成機関における)外来での神経難病のカリキュラムが無いという質問に対して、かみ合っていない回答という印象を受けた。難病教育は今のお話、ご指摘を含めておっしゃる通りだと思う部分もあるので、法改正も含めて議員がしっかりと受け止めて対応する必要があると思う。
 また、先ほど新保さんが言われた、神経難病の方々が外来でのリハビリを途中で断念せざるを得ないという話も、そこは議員の我々もしっかりお聞きしたいと思う。
 ヤングケアラーについてもおっしゃる通り、若いこの国の方々がなかなか大変な状況ということを伺っているので、しっかり受け止めて対応していきたいと考えている。
(文部科学省)
 病気の理解について、小中学校の教育プログラムでは学習指導要領に基づいて小学校では体育科、中学校であれば保健体育科を中心として、学校の教育活動全般を通じて適切に行われるものとされている。
 こうした学習の中で、健康の大切さを実感できるように、各学校で指導されている。数多くある病気の中から、教師がその時の学習において適当だと思われる疾病を取り上げる形で進めている。
(厚労省)
 少し補足させていただくと、学校教育という観点で申し上げると文科省の回答の通り。一方で、みなさまのご要望はいろいろな方々に、難病の知識についてしっかりと知って欲しいというお声かと思う。
 厚労省としては、難病情報センターで情報発信しているが、分かりやすく入り口のところからしっかりと理解していただけるような工夫を行う必要があると思っている。

6.難病法施行5年後見直しによる法改正に向けて、進行性の神経疾患については下記を改善してください。

6.3 SCD・MSAは軽症者でも確定診断後から医療費助成の対象にしてください

(近畿SCD・MSA友の会 酒井)
 軽症者特例というのは、軽症者であっても医療費が高額の場合、医療費の助成が受けられるというよく考えられている制度です。
 しかし先日、SCDの患者さんからこんな電話相談がありました。主治医から難病と告げられ、「治らない病気で治療法もない。進行を抑制する薬があるが、薬代は高い。医療費の助成制度があるが、あなたはまだ初期の症状だから対象にならない」と説明されました。その患者さんは「生きる希望を失い、毎日、死にたい、死にたい」と思っているとのことでした。
 医師は医療の専門家ですが福祉の専門家ではありません。軽症者特例を理解している医師がどれほどいるでしょうか。私が所属する近畿SCD・MSA友の会の会員アンケートでは、医師から保健や福祉制度の説明があったのは27.8%でした。3割にも満たないのです。
 また、臨床調査個人票(診断書)の作成には医師にとって割に合わない仕事です。医療費助成の対象にならないら、なおさら書こうとしないのです。その結果、未申請者が増え続けています。それにより難病の調査研究に早期の患者のデータが過少となり支障をきたしています。
 私の妻は、闘病20年になります。発病当初から医療費の助成を受けることができましたが、現在の患者は早期の治療の機会を奪われています。軽症者特例が機能していないから、患者は治療ができないだけでなく、生きる意欲も希望も失うことになっています。SCD・MSAの軽症者であっても医療費助成の対象にしてください。
(とやまわかち会 松村)
 ちょうど4年前の6月、みなさんに要望する席に私も参加し、席上私は「早期治療のため、進行性の難病であるSCDやMSAについては、確定診断が出たらただちに認定するという考え方はないのでしょうか」と質問しました。今回提出した資料は、私たちがお願いしていることがけっして的外れではないことを裏付けるデータではないかと思います。
 厚労省難病医療研究班の小森先生のグループは、3,000人の患者さんを対象に、病状の変化など生活実態調査を実施しました。そのデータを分析すると、338の難病は15の分野で構成され、それを3つの類型に分けることができるそうです。
 そのうちの類型1というのは、「患者が自立して生活することが困難であること」「症状が進んで悪化することが避けられないこと」「したがって他の疾患群にくらべて、より手厚い支援制度が必要である」と論文は述べています。その類型1に入る疾患は、数ある難病の中でも、ALSや私たちSCD・MSAのような神経筋疾患だけ、というのには、正直言って愕然としました。
 難病といっても中には症状が比較的安定し、仕事を続けて自立した生活を送れる難病もあります。その一方で、私たちのように必ず重症度が進んで仕事を辞めざるを得ない、自立した人間らしい日常生活を少しずつ奪われていく、医療福祉制度を最大限利用しなければ命の危険すらある、という類型の区分があることを、厚労省研究班の成果として示されたのです。
 そこで、厚労省としてこの研究の成果をどのように評価しているのか、また難病法見直しの際に、類型1の進行性難病について特別に考慮すべきという議論があるのかどうかお聞かせください。
(厚労省)
 2年前にも同じ内容でご指摘いただいた。現場の方で、特に医師の先生方にはこの制度について十分にご案内できていないというところがあるかと思う。
 難病指定医の先生方、また難病拠点病院の先生方に関しては、軽症高額制度を患者さんたちにご活用いただく工夫を更に重ねて努力をしたいと考えている。
 次に、ご指摘いただいた小森先生の研究についての厚労書の見解は、研究内容である難病相談支援センター、社会福祉協議会との連携に関して3つの区分を小森先生が設定をされ、ご指摘をいただいているところ。しかし、難病法の見直し検討では、一定の基準に合致した方に関して医療費助成をするという枠組み(重症度分類)自体を根本的に変えるという検討は現状していない。
 軽症者の方であっても、データベースに登録していただくために、登録証(仮称)を発行して他の福祉サービスが円滑に利用できるような枠組みにすべきではないかというご指摘・意見書をいただいている。
 未だ法律に至っていないが、引き続き検討を進めていきたい。
(とやまわかち会 松村)
 厚労省の立場としては、軽症者は医療費助成制度の認定はしないが、一方で臨個票に相当するデータはほしいということだろうと思います。難病対策委員会の議事録を読ませて頂いたが、登録してもらうためのインセンティブについてかなり意見が出ていました。しかし患者目線で見たら魅力がなく納得がいかない。絵に描いた餅になるのではないかと思います。
 進行性難病について、いろいろな治療法や治験も進んでいる。軽症者の治験対象者を探すのも大変な状況。進行性の疾患については、軽症者であっても確定診断がついた時点で臨個票が取れるような形を取って頂きたいというのが私たちの願いです。
(厚労省)
 軽症者登録証(仮称)については、魅力がないというご指摘だが、そこはしっかりと検討させていただく。各疾患毎の事情は当然あるかと思うが、一定の診断基準の撤廃を検討するのは難しい。5年経過している中で、さまざまな疾患毎に科学的な知見は変わってきているわけで、いわゆる重症度分類のアップデートも進めているところ。それぞれの疾患毎の科学的知見に基づき、重症度分類の中に入るように、引き続き検討させていただきたいと思う。
(全国SCD・MSA友の会 中山)
 難病法の改正の時期の目処というのはありますか?
(厚労省)
 厚労省内部でコロナ対策に人員体制が割かれている。難病対策課も、正直申し上げてかなり人員が減っている。ただし、難病法改正が遅れている中で、法案として何ができるか、どのように工夫して進めていけるかを、省内でしっかりと相談して、できるだけ早急にとりまとめができるように進めていきたいと考えている。