最近読んだ本 その4(boku)

「淳子のてっぺん」 著者 唯川 恵(ゆいかわ けい) 幻冬舎文庫
          直木賞作家

女性登山家 田部井淳子をモデルにした小説です。
田部井さんはこの小説の完成を楽しみにしていましたが、完成を見届けることなく、2016年に77歳で他界されました。
男女差別が色濃い時代、仕事や家庭との両立問題に加えて、「女が登れるわけがない」「女が男に勝てるもんか」「女のくせに生意気だ」といった偏見があり、彼女の前に立ちはだかる壁は高かったようです。
その言葉に奮起し、女性だけの隊で世界最高峰を目指し、標高8,848メートルのエベレストの登頂に成功しました。
しかし、そこにたどり着くまでには多くの障害がありました。
遠征費用の調達の問題、寝る暇もないほど膨大な準備、隊員同士の軋轢など。
そんな中で、田部井さんは副隊長として大変な苦労をしながら隊をまとめて行き、偉業を成し遂げました。

また彼女が生涯、登山を続けることができたのには夫の協力が不可欠でした。
夫も登山家でしたが、海外での登攀中に凍傷にかかり、足の指を切断せざるを得ない大怪我をしました。それ以後は妻の登山のバックアップに努めました。
資金的な援助、留守中の子供の世話など。

生涯で76か国の最高峰に登ったというキャリアは素晴らしいものですが、本書では田部井さんはスーパースターとは程遠い、ごく普通の社会人、妻、母親として描かれています。
<「言っておくけど、てっぺんは頂上じゃないからな」「淳子のてっぺんはここだよ。必ず、無事に俺のところに帰ってくるんだ」>という夫の言葉はたいへん印象的です。
 
山岳小説では新田次郎が代表的な作家ですが、女流作家によるものはあまりありません。
田部井淳子さんの持つ庶民性と逞しさが、著者の女性としての共感をもたらしたのだと思います。

皆さんも暇があれば、読まれたらいいと思います。感動できる一冊でした。