スーパーでお悔やみを言う(S・M)

 先日、行きつけのスーパーで久しぶりにAさんと会った。
 Aさんは私の元職場が入っていた建物のビル管理担当だった。ダンディで彫りの深い顔立ちに似合わず、私たちの所に来るといつも朗らかな笑い声を振りまいていた。定年後に出会うのはいつもこのスーパー。「テニスは体にいいよMさんも始めなよ」が口癖だった。

 そのAさんに私は、挨拶もそこそこにお悔やみを言った。それはこの秋、地元のセレモニーホールで霊柩車に乗り込む喪主がAさんに似ていたので、新聞を確認すると奥さんの名前があったからだ。

 「じつはキョウヒショウという難病だったんだ」とAさん。
 はじめて聞く病名だった。強皮症とは皮膚が厚く硬くなる病気で、全身性と限局性がある。全身性は皮膚だけでなく多臓器にわたって表皮が繊維化する。肺が繊維化すると呼吸困難、心臓では不整脈になる。Aさんの奥さんは全身性だった。
 「最近はトイレに行ってもほとんど出なくなった。膀胱が硬くなったんだね。導尿がなかなか大変だった。6月に転倒して入院したんだけど、それからどんどん悪くなってね。食道も硬くなって飲み込めなくなった…」 そこまで話して、初老のオヤジ二人が深刻な顔つきで混んでいる通路を塞いでいることに気づいた。

 娘が一人いるが東京だという。急な一人暮しだったらしく、冬物がどこにあるかもわからんと自嘲気味につぶやいた。私は「じつはうちも難病で、ああ見えても一人では歩けない」と遠くでカートを押している妻を指差した。一瞬Aさんの表情が凍りついたように見えたがすぐに相好をくずして「俺みたいにならんようにな」と笑った。