最近読んだ本 その3 (boku)

「介護殺人」(追いつめられた家族の告白)
毎日新聞大阪社会部取材班著 新潮文庫

深刻で重苦しい内容のノンフィクション。タイトルから想像できる通り、介護を苦にして起きた殺人事件について、刑を終えた加害者等への取材をする中で、日本の在宅介護の実態、問題点を浮き彫りにしていく内容のドキュメントです。

介護殺人の取材の中から浮かび上がってきた事実は、介護者が家族のために苦労と犠牲を厭わず介護をしてきたにもかかわらず、結果として事件となったことです。また逆に、介護を放棄していれば事件は起きなかったであろうという見方もできます。そこに問題の本質、根深さ、改善されるべき点があると考えられます。

介護疲れによる殺人や心中が決して他人事でないことが、この本の中での加害者の告白や事件の分析から明らかにされています。
毎日新聞が全国の支援団体を通じて介護者に対して行ったアンケートの中で、介護殺人のリスクに関して尋ねた「介護している家族を殺してしまいたいと思ったり、一緒に死のうと考えたりしたことがありますか」という聞きづらい質問に対して「はい」と答えた人が20パーセントおり、どんな時にそのように考えたかを尋ねると「介護に疲れ果てた時」「将来への不安を感じた時」という回答が多いという結果が出ました。また、不眠状態が「続いている」と「時々ある」を合わせると60パーセントという結果が出ました。
本書の中で加害者が打ち明けたのも、介護者にとって寝不足や不眠の問題がかなり深刻であるということです。

高齢化が進み、介護を必要とする人の数が急激に増加しています。また医療の進歩で長寿社会になると、介護を受ける期間が以前より延びることになります。そのことは介護する人も期間が延びることを意味しています。
西暦2025年には要支援・要介護者は約830万人、在宅介護を受けている人は約490万人になると見込まれています。誰もが家族の介護という問題に直面することになります。

本書では最後に次のように述べられています。
「人生や生活を犠牲にしても愛する家族のために懸命に介護する、人間の力の素晴らしさ。どんな人も介護をしていたら、体や心に限界を感じたり、葛藤を抱えたりすることがあること。きれいごとだけでは、介護を巡る悲劇を防ぐことも、介護者の苦悩を和らげることもできないのではないかという現実」
急がれるのは、在宅介護を推進する国や自治体が介護者を支えるための施策や取り組みを強化することだ。介護疲れが原因とされる殺人や心中をなくすための具体策についても知恵を絞ってほしい。
被害者の無念の死を無駄にしてはならない。

私たちが直面する介護の問題、皆さんと話し合いをしていきましょう。