SCD・MSAの最新治療研究にふれて(2017.1.19)

とやまSCD・MSA友の会 会員 松村 茂

 2017年1月19日、SCDやMSAの治療法を研究しているお医者さんと研究者の合同報告会が東京で開催されました。この報告会は、厚労省の難治性疾患対策として全国の20を超える主に大学病院と国立病院の神経内科などが、医療基盤と治療法開発の2つの班を作り、それぞれのテーマについて1年間の成果を発表し、議論する場となっています。
 2年ほど前から主催者の「患者のみなさんにも聞いていただくことが研究者の励みになる」との意向で、全国SCD・MSA友の会を通じて患者団体の代表が参加しています。今回、とやまSCD・MSA友の会からは私、松村が参加しました。医師向けの専門的な内容を正確にお伝えすることは不可能ですが、患者目線で特に印象に残ったことを報告します。

いよいよ治験が近づいているようだ

 発表の多くは基礎医学や診断法の研究テーマでしたが、患者の自然歴調査や登録体制づくりについていくつか報告があり、いよいよ治験が近づいてきていることを感じました。
 たとえばSCA6の患者さんの進み具合では、障害別の分析結果は5年経過で見ると構音障害やその他はゆっくりですが、歩行と立位は進行が顕著でした。このデータに対して「治験の際に考慮すべき有効なデータだ」との意見がありました。 どういう意味かというと、病状の進行は個人差があるが、一定数以上のグループを作れば平均値は同じなので 治験の際に投与したグループとそうでないグループで、歩行と立位の差異に注目するということらしいです。
 またJ-CATという遺伝子解析ネットワークシステムがスタートしました。これは患者自らWEB登録および臨床情報を入力、担当医師がそれを補助する(患者が希望すれば医師が代理登録できるオプションも)という仕組みです。患者数が稀少で全国に散在していてもネットワークを通じて無料で最先端の遺伝子検査を受けられるようにすること、また自然歴も明らかにすることを目的としたものと思われます。昼休憩時の班員会議の折に近畿SCD・MSA友の会の岡崎会長が代表して挨拶しましたが、司会の医師はJ-CATは患者団体さんの協力がなければ成功しない、と発言されました。

コエンザイムQ10(CoQ10)がもうすぐ治験に

 実際に治験がもうすぐ、というところまできているテーマもあります。東大の辻教授の発表では、MSA患者の血漿中のCoQ10の濃度が低下していることから、これまでCoQ10の補充療法の研究を進めてきており、昨年サルに大量、長期、反復の投与を完了、今年度中には結果が出る予定です。 現在、治験のための多系統萎縮症レジストリ(患者データベース作り)を多施設共同研究体制で開始した、とのことです。

今飲んでいる薬は効いているのか

 現在、唯一の保険適応であるTRH療法(ヒルトニン注射やセレジスト服用)の効果についての報告もありました。 ヒルトニン静脈注射を1日1回14日間連続投与後、運動失調評価の変化をみたところ、従来から言われているように有為な改善を認め、特に立位バランスでの改善がみられたとのことです。今後症例を多くして、病型による効果のバラツキなども分析してもらえるとありがたいですね。なお、プリズム順応という運動学習機能には効果が見られなかったとのことでした。同じ小脳の機能でも薬効に差があるのかもしれません。
 TRH療法の有効性については、理研の六車恵子氏のチームも異なるアプローチで証明しています。SCD患者のiPS細胞から小脳細胞を分化させ、病態を再現しながら薬剤の効果を試すというやり方は最初からヒト細胞で行うため進捗スピードも速そうです。六車報告の「患者由来のiPS細胞」は、近畿SCD・MSA友の会の会員が提供したものだそうで、昨年11月の発表はSCA6でしたが、すでにSCA1と3のiPS細胞の培養が始まっていると聞きました。

QAI1という既存薬も有望か

 でもセレジストの他に薬はないんでしょうか。抄録2-6にこんなタイトルがありました。「QAI1はポリグルタミン蛋白質のオリゴマー化を阻害し、ポリグルタミン病モデルマウスの運動障害および神経変性を抑制する」。
 ポリグルタミン病とは、グルタミンをコードする配列が異常に長く伸びた遺伝子変異による神経変性疾患の総称です。遺伝性の脊髄小脳変性症もそれに含まれます。その遺伝子変異によって原因蛋白が凝集し神経変性を引き起こすことがわかっています。既存薬であるQAI1を異常蛋白を発現する培養細胞に投与すると、ショウジョウバエモデル、線虫モデルで神経変性が抑制され、モデルマウスにおいても効果が認められた、とあります。
 QAI1はヒトへの安全性が確立しており、アルツハイマー病やパーキンソン病にも有効性が期待される、とのこと。有効な既存薬がもう一つ見つかりそうだ、という発表でした。

ここ数年治療法開発がスピードアップ

 ここに来て有効な薬剤が次々と特定されてきている要因には、遺伝子解析が進み、人為的に細胞レベルで遺伝病を発症させる培養技術が進んだことや、iPS細胞の発見により特定部位の細胞の再生が可能になったことなどが挙げられます。ほんとにスゴイことです。私が参加した研究会は、間違いなくSCDやMSAに関して日本における最新の知見であると感じました。
 会場でSCD・MSAの診療ガイドラインが今年度中に完成するとアナウンスされました。天邪鬼的な言い方をすればこれまでスタンダードがなかったわけで、多くの神経内科医師は手探りで診断し治療してきたと言っても過言ではありません。患者団体としても、もっとしっかりしなければ、との思いを強くすると同時に、研究開発や治験に積極的に協力することで、たとえ自分たちには間に合わなくとも今後発症する仲間や子や孫たちの希望となることができる、と胸に刻んだ出張でした。