医療情報レポート

医療レポート.3:理研・SCA患者のiPS細胞から既存薬の薬効を証明
(わかち誌 №23・2017.2.4)
岩井正雄

最近、SCD・MSAに関する研究の進展報告は余り報告されていませんでしたが、最近理化学研究所プレリリースに患者由来ips細胞による脊髄小脳変性症の病態再現−小脳プルキンエ細胞変性から病態を理解し、創薬への道を開く−と題して多細胞システム痙性研究センター 非対称細胞分裂チームの研究報告が出されました。以下簡単に紹介します。

脊髄小脳変性症6SCA患者の皮膚や血液細胞からips細胞を作成し、これをもとに小脳の神経細胞を培養したところ健常人のプルキンエ細胞1に変性が認められた。さらにこれにある種のストレスを加えた条件下で培養すると細胞の一部が萎縮するなど異常な形態が現れた。このような変化に対して、SCA治療薬の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)やALS治療薬のリルゾールにその形態変化を抑制する作用があることが分かった。
以上のことから本病気の理解、創薬研究の開発か期待ができる、と報告しています。

なおこの記事は朝日新聞、読売新聞にも掲載されました。

引用文献:理化学研究所 プレリリース 客員教授 石田義人、専門研究員六車恵子
(註1)プルキンエ細胞:小脳皮質内の分子層と顆粒細胞層の間にある細胞

 

医療レポート.2:群大・平井教授の「根治的治療法の研究」
(わかち誌 №19・2016.4.22)
岩井正雄

今回は昨年9月26日富山市サンシップホールで行われたSCD・MSA秋季医療講演会において富山大学神経内科教授高嶋修太郎先生による講演の中で名前のみ紹介された群馬大学平井教授の研究について簡単に紹介します。医療面について素人の私は、日本で誰が、どんな研究をしているのかよく知りません。そこで失礼とは思いますが、この場を借りて勉強のつもりで、紹介させて頂きます。

平井宏和先生は群馬大学大学院医学系研究科教授であり、国家予算(SORST)のもとに「脊髄小脳変性症の根治的遺伝子治療法の開発」という課題で研究を進め、以下のことを明らかにしています。
小脳の神経細胞に変異を有するマシャド・ジョセフ病 註1)原因遺伝子をもつモデルマウスを作り、そのマウスが運動機能に障害があり、特に平衡障害があることを確認し、さらにマウスの小脳も著しく萎縮し、神経細胞内には毒性のたんぱく質が蓄積していることも確認しました。
次にこのマウスの小脳に、レンチウイルスベクター註2)を用いて、「CRAG」註3)という遺伝子を導入したところ、マウスの運動失調が大幅に改善され、さらにマウスの小脳神経細胞中の毒性たんぱく質の量が劇的に減少し、ダメージを受けていた神経細胞が回復していたことも認められました。
今後、この遺伝子導入法を発展させ、遺伝子治療として患者に応用することで脊髄小脳変性症の治療が可能になることが期待されると報告しています。

参考文献:JST FRONT LINE (2008年5月号) 他
註1) マシャド・ジョセフ病:遺伝型の脊髄小脳変性症で、最も 患者数が多い。
註2) レンチウイルスベクター:DNAを増やしたり、発現させたりする道具をベクターと言い、「遺伝子の運び屋」と呼ばれる。レンチウイルスベクターとはその運び屋にウイルスの一種であるレンチウイルスを用いたもの。
註3) CRAG遺伝子:多くの神経変性疾患の原因物質となるPolyQ蛋白質を分解し、その凝集を妨げる作用があると報告されている。

 

医療レポート.1:SCDMSAに関する最近の研究状況
(わかち誌 №19・2016.4.22)岩井正雄

山中先生のips細胞の研究を端緒に、再生医療に関する研究が活発になり、難病であるSCD・MSAに関しても例外ではなく、理研の六車研究員を中心に研究が活発に行われています。そこで全くの素人ですがSCD・MSAに関する近年の研究状況をまとめてみました。 

「多系統萎縮症の発症に関与する重要な遺伝子(COQ2)を発見」

東京大学医学部付属病院 神経内科 辻省次教授らの研究チームは日本、ヨーロッパ、北米の国際多施設共同研究による遺伝子解析を行い、神経難病の一つである多系統萎縮症の家族性、孤発性に共通して病気を発症しやすくなる遺伝子(COQ2遺伝子)がこの疾患で初めて存在することを発見しました。(発表雑誌 The New England Journal of Medicine)
COQ2遺伝子は、コエンザイムQ10を生合成するために必須の酵素であり、その働きが低下することが病気の発症に関連すると考えられることから、実現可能性の高い治療法の開発が期待できます。
(東京大学医学部附属病院2013年6月12日 記者発表資料より) 

ES細胞から小脳のプルキンエ細胞の誘導に成功」

理研CDBの六車恵子研究員らは、マウスのES細胞からプルキンエ細胞を選択的に誘導することに成功し、さらに誘導したプルキンエ細胞をマウスの小脳に移植し、正しく神経回路に組み込まれ、またこの細胞本来の特徴をそなえることも実証された。
(註)ES細胞:身体を構成するすべての種類の細胞に分化する能力(多能性)を有するもの
プルキンエ細胞:小脳皮質の情報処理の中心的な神経細胞
(2013年9月理研プレスリリースより抜粋)

「ヒトES細胞から小脳の神経組織への分化誘導に成功」 

前述のマウスの研究結果に基づいて、さらにヒトES細胞から小脳の神経組織へと、高い効率で選択的に分化誘導させることに成功した。この成果は種々の脳神経疾患に対する再生医療への応用につながるものと考えられます。
(2015年1月30日理研プレスリリースより抜粋)

ipsで小脳神経細胞 ―運動機能治療に期待―

運動機能をつかさどる小脳の神経細胞を、人のips細胞(人工多能性幹細胞)から作成できたと、理科学研究所多細胞システム形成研究センターの六車恵子・専門研究員らのチームが発表した。小脳の難病の治療法開発につながるとしている。論文は米科学誌セルリポーツ電子版に30日掲載される。
(2015年1月30日読売新聞より)

以上。現在までの進展状況を簡単にまとめてみました。ミスがあればご容赦下さい。
実用はまだまだ先の話かも知れませんが、パーキンソン病についてはipsからつくった神経細胞の大脳移植の臨床研究が来年にも始まるとのことですので、小脳についてもきっと光が当たってくると思いたいですね。近い未来に!